婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜

「そうだ、侯爵令嬢。おれも頑張ってるって我が王太子殿下に言ってくれよ~。レイのやつ、おれのこと便利な使い走りかなにかと思ってるぜ、絶対」

「え?」わたしは目を丸くする。「それはルーセル公爵令息様におっしゃったほうが良いのでは? 彼は王太子殿下の一番の側近ですし……」

「駄目駄目。あいつらはグルだからな。それに侯爵令嬢の言うことはレイはなんでも聞くから。なにせ未来の愛しい奥さ――」

「ストップ」ガブリエラさんが伯爵令息の口を塞いだ。「時間がないわ。そろそろ出発しましょう?」

「ふぁふぁっふぁふぁ」と、伯爵令息は苦しそうにコクコクと頷く。

 わたしが首を傾げているとガブリエラさんはパッと手を離して、

「じゃ、あたしたちはお先。次に会うのはもう建国祭の当日かしらね。頑張ってね、オディール」

「はぁ……。い、息が……。じゃ、次はレイが来たときにな。健闘を祈るぜ、侯爵令嬢」

「二人ともありがとう。ご機嫌よう」



 わたしは二人を見送ってから、おもむろに立ち上がった。まだ王太子殿下の歓待の準備は終わっていないのだ。

 お次は軍隊だ。当日の警備の状況をじっくりと確かめなければね。どこにどういう風に配置されているか知りたいわ。ついでに行動の展開図も。

 お誂え向きなことに手元には王子の委任状がある。彼から戴けて本当に良かったわ。


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