婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜

 わたしは彼の言葉を黙殺して国王陛下のほうを向いて、

「これらの美術品は王子殿下が法に背いた手を使って入手したものですわ。購入証明もこちらにございます」と、貸金庫から見つけた封書を見せる。

 出し抜けにレイが一歩前に踏み出して、従僕たちが掲げている美術品をしげしげと眺めた。

「おや、これは我が国の博物館にあった古代ローランの黄金の壺ではないか。たしか三年前に盗難されたものだ。……どうして、アングラレスの王子のコレクションに入っているのかな?」

「国際問題だわっ!」ガブリエラさんが周囲にアピールするように大げさに嘆く。「隣国の国宝を盗むだなんて! それも王族自らが……! これは両国間の信頼関係に泥を塗る行為よ! 信じられない!」

 場の空気が真冬の雪景色のようにひんやりと冷たくなった。
 これは外交的に非常に不味い事態なのでは……と、不穏な予感が水に溶けた絵の具みたいにじわじわと広がっていく。
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