婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
「なに?」と、彼が出し抜けにこちらを向いた。
わたしは思考を読まれているような錯覚に陥って、心臓がドキリと飛び出しそうになった。労働の汗とは違うものが額に流れる。
「い……いやぁ、見ない顔だなぁって思って」
「僕は今日から働くことになったんだ。名前はレイだ。よろしく」
「そ、そっか。こちらこそよろしく。わた――オレはオディオ、だ」
「オディオか。それにしても随分若そうだな」
「あぁ、オレの家は貧しくて、おまけに両親が身体を壊したから長男のオレが働きに出ているんだ。ここは厳しいがそのぶん給金はいいだろ? ……で、オマエはなんでここに?」
わたしも彼――レイにここにいる理由をさり気なく尋ねる。
さぁ、どう答えるのかしら、このお貴族様は。
彼はニッと笑って、
「僕も君と同じようなものだよ。全く、互いに苦労するな」
素知らぬ顔で言ってのけたのだった。
「そうか。お互い大変だな」と、わたしは心無い返事をする。