婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
レイモンドの心情などなにも知らないヴェルが、つぶらな瞳をぱちくりさせながら繰り返す。
「オディール・ジャニーヌ ハ コウシャクレイジョウ ソレダケガトリエサ」
「いいか、鳥! よく聞けっ!!」
気色ばんだレイモンドがヴェルの頭をポンと掴んだ。
「ピュ?」
「オディール嬢の取り柄は侯爵令嬢だけじゃない。彼女には他にも素晴らしい性質を持っているんだ」
ヴェルはくるりと首を傾げる。
「コウシャクレイジョウ?」
「そうだけど、それだけじゃない。そうだな……彼女は真面目で努力家なんだ。ほら、言ってみろ! ま、じ、め、ど、りょ、く、か!」
「マジメ……ドリョク…………カ?」
「そうだよ。真面目で努力家。はい、もう一度」
「マジメデ……ドリョク、カ」
「よしっ、いいぞ鳥。オディール嬢は真面目で努力家だ」
「オディール マジメ ドリョク、カ?」
「そうそう。真面目で努力家、な」
「マジメデ ドリョクカ…………ソレダケガトリエサ!」
「そこは変わらず言うんだな」と、レイモンドはガクリと姿勢を崩した。
「オディール! オディール!」
すっかり興奮した様子のヴェルは挨拶もそこそこにエメラルドグリーンの翼を広げてバサリと飛び立って行った。
「あっ! もう少し練習を――行ったか」
レイモンドはぐんぐんと遠のいていくヴェルを見つめる。
せめてオディールの側にいる彼が、彼女をもっと励まして欲しいと願いながら。