二人でお酒を飲みたいね。
 外は土砂降りの雨である。 さっきまではそうでもなかったのに、、、。
「いやあ、ひどい雨だぜ。」 栄田たちもずぶ濡れになって慌てて飛び込んできた。
夜中にこんな雨なんて、、、。 しかもテレビでは大雨特別警報なんて言っている。
「これじゃあ、明日は動けないな、たぶん。」 「えーーー、この人たちと明日も一緒なの?」
「しょうがないよ。 この雨じゃあ道路も水に浸かっちまって車もおちおち走れない。」 「そうだけどさあ、嫌だなあ。 変態と何日も一緒ってのは。」
「おめえだって変態じゃねえか。 お互い様だろう?」 「それはそうかもしれないけど、、、。」
初枝はさすがに返事に困ってしまって俺に助けを求めてきた。 「どっちもどっちだね。」
「まあ、高木さんまで、、、。」 「やられたやられた。 女王がやられた。」
「何ヨ 変態魔王様。」 「だからどっちもどっちだっつうの。 分かってないなあ。」
「さあて、もう3時だぜ。 寝ようや。 いい加減、、、。」 「すっかり忘れてたよ 寝るのを。」
「寝るのを忘れてどうするのさ?」 「死ぬだけだあ。」
というわけで、今夜もまたまた中年グループは居間と寝室でゴロゴロと寝るわけです。
ほんとにこんなんでいいんでしょうか? 会議ついでだとはいえ、、、。

 さてさて、翌朝はすっかり晴れ渡っております。 でもおっさんたちは寝るのが遅かったんでまだ寝てます。
おやおや、初枝や尚子も同じくで、まるで酔い潰れたカラスが引っ繰り返って寝ているよう、、、。
朝のうちは誰も起きないようです。 年には勝てないのかなあ?
 竿竹屋が走ってきました。 マイクで騒いでます、売れないんでしょうか?
でも今では流し売りなんて珍しくなったなあ。 焼き芋にチャルメラに竿竹に昔はいろんな物が走ってたのに。
風物詩が無くなるってこれほど寂しいことは無いなあ。 黒電話も無くなったし、、、。
公衆電話を置いているタバコ屋も見なくなったし、、、改札のハサミも見ないしねえ。
国鉄の切符は固い紙だった。 あれおをパチンパチンって駅員が切っていくんだ。
切り口でどの駅から乗ったか分かるようになってたとか言ってたなあ。
今はさあ、自動券売機でガチャン ポチ、 シュッ、チャリン、、、だもんなあ。 味気ないよ。
カード改札もいいけれど、人間がカチッてやる改札のほうが暖かくていいじゃないか。
自動化すればいいってもんでもないだろう? それだから働く人が減るんだよ。
何でもかんでも便利になっちまったらいけないの。 不便の中に幸せが隠れてるんだ。
俺はそう思うよ。
労働者不足もいいけれど、それより何より安心して働ける場所が無いじゃないか。 そう思わないか?
きつい 汚い 危険は当たり前。 そのおまけに気持ち悪いと来たね。
おまけついでに会社は何でもかんでも出し渋り。 儲からないからって給料まで削ってどうするのさ?
社員が居るから会社はやっていられるんだ。 社長が回しているわけじゃないんだよ。
そのくせ、偉そうな顔をしたピーマン社長が幅を利かせている。 だから社員が居なくなって外人を入れなきゃいけなくなった。
自業自得だよ それを今の社長は知ろうともしない。 みんな死んじまえってんだ!
下請けの下請けまで大事にしている会社がどれくらい有るね? 片手で足りるだろう。
まともな経営者が居なくなった日本なんて魅力も何も感じないよ。
何か有れば中国中国ってネズミの嫁入りじゃあるまいに。

 「ファーーーー、よく寝たわ。」 初枝が起き出してきました。
「旦那さん 何とも思って無いのかなあ?」 「大丈夫よ。 会議でお泊りって言ってあるから。」
顔を洗いながら尚子と初枝は計画を話し合っておりますが、、、。
「そろそろ、実動部隊に動いてもらわないと困るわよねえ。」 「そうだなあ。 答申案は作っておいたから社長にも奮起してもらわないと、、、。」
「でもあの人で大丈夫なの?」 「それは私にも分からない。 あの人はとにかく未知数なのよ。」
「やあ、おはよう。」 そこへ栄田が起きてきた。
「もう昼過ぎたわよ。」 「えーー? もう?」
「全くよく寝るんだから、、、。」 「しょうがないよ。 寝るの遅かったんだし、、、。」
「言い訳だけは上等ねえ。 栄田君。」 「魔王に言われたくないよ。」
「またまた、、、。」 「さあて、ご飯を食べたら作戦会議をするからねえ。」
「会議?」 「そうそう。 あの社長をどうやって本気にさせるか、、、。」
「それはさあ、尚子ちゃんを抱かせればいいんだよ。」 「何ですって?」
冗談のつもりで話した河井に尚子が本気で詰め寄ってきた。 「わわわわわわわ、、、。」
「河井さん、、、それはどういう意味かしらねえ?」 「冗談だよ 冗談。」
「私にだって選ぶ権利は有りますからねえ、河井さん。」 「だだだだから、冗談だってばよ。」
「冗談で済まない冗談も有るのよねえ。 分かる?」 「河井、やっちまったなあ お前。」
それにしてもこの中年グループはいつまで俺の家に居るんだろう? そろそろ平和になりたいものだ。
とはいうけど、初枝が隊長じゃなあ、、、。 浮かぬ顔をしていると尚子が寄ってきた。
「そろそろ疲れたわよねえ? 引き上げてもらいましょうか。」 「分かってるねえ。」
「だって、高木さんの妻ですから。」 「ぐ、、、。」
尚子は俺の頬にキスをすると三人に向き直って笑顔になった。 「そろそろ形も見えてきたからマイホームでゆっくりしませんか?」
「それもそうだな。 こう何日も高木君の邪魔ばかりしてられない。 そろそろ引き上げよう。」
河井も栄田も初枝もどっか名残惜しそうである。 「また来ればいいじゃないか。」
「それもそうねえ。 お幸せに。」 「え?」
「またまた今夜から尚子ちゃんと二人っきりよ。 高木さん。」 「あぐ、、、。」
初枝は焦っている俺を見詰めてから帰っていった。 「帰っちゃったわねえ。」
「静かなもんだなあ。」 「今夜からまたたっぷりと高木さんに甘えられるわーーー。」
「えーーー?」 「嬉しいでしょう?」
「そりゃあ、、、ねえ。」 「何ヨ その言い方は?」
「嬉しいです はい。」 「よろしい。」
「女王様だなあ。」 「何か言いました?」
「何にも。」 「来週は忙しいのよ。 社長とも話さないといけないし、マスコミも取材に来るし、、、。」
「嫌だなあ。 尚子ちゃん代わりに出てよ。」 「何で私が、、、。」
「そうだよなあ。 んんんんんん。」 俺は根っからの上がり性だ。
記者会見なんてまっぴらごめんだよ。
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