あめのふるひる〜平安の世で狐に嫁入りをした姫君の話〜
 雨と云うものは、もっと五月蠅いものだと思っていた。
 御簾のなか、火鉢のそばで両の手をすり合わせながら聞く水音は、ざあざあ、ざあざあとやかましいばかりで、少女にはけして好もしいものではなかったから、特にそう思う。
 どろどろと鳴るおそろしげな音は、雷神の鳴らす太鼓の音だと聞いたことがあった。

 ――おひいさま。そんなにお外ばかり見ていては、もののけに攫われてしまいます。

 そう言って、少女を邸の奥へ抱いて戻した女性は、たしか淡路と呼ばれていた。
 ほかにも少女の周りにひとはいたけれど、たさんいすぎて覚えきれなかったから、少女はなにかあるたびに、淡路を呼んだ。
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