あめのふるひる〜平安の世で狐に嫁入りをした姫君の話〜
 ――あわじ、あわじ。
 ――はい、おひいさま、どうしましたか?
 ――あまいものがたべたいの。
 ――はい、はい。さきほど若狭さんが粉熟を作っていましたから、すこしもらってまいりますね。
 ――くりのがいいわ。
 ――ええ、もちろんでございます。
甘い菓子をねだれば、四半刻もせずに少女の前にもたらされるそれらを、特別なものだと思いもしなかった。

 ただ、少女にとって、粉熟や餅といった甘いものや、螺鈿細工の美しい鏡箱、そして美しい音を奏でる琴は、当たり前に与えられるものでしかなく、心の底から満ちることはけしてありはしなかった。
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