【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

 一片を喉に通せば、また千切って口元に運ぶ。冷たい床に膝をついたまま、マリアは静かに咀嚼する。

 男は目を細め、その様子を見つめていた。

 ——スープだって。これは囚人(あなた)のために作られたのじゃない。まかないの残り物だとしても、厨房のシェフが腕を振るったものだと私は知っている。
 
 厨房にいたマリアは、このスープが作られるところを目の当たりにしたのだ。
 マリアが好きな優しいシェフ、ノルマンの笑顔が無惨に散らばったキャベツと重なった。
 いたたまれなくなって目頭がじんわり熱くなる。

 この男の嫌がらせが悔しいんじゃない。人の心がこもったものを乱雑にされたのが辛いのだ。

 パンを食べ終えると、今度は床に両肘をついた。震える両手を地面に向かって差し伸べて、マリアは目を閉じる。

 ——大丈夫……。ただ床に落ちただけ。食べる物には変わらない。

 華奢な白い指先が地面に付くかつかないかの、そのとき。

「おい、待て」

 マリアを眺めていた男の、(あお)い瞳が揺らめいた。

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