【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
一生懸命に昨夜のことを思い出してみるけれど、特におかしな事はなかった。それどころか昨夜のジルベルトは機嫌が良く饒舌で、ウイットに富んだ冗談を何度も言ってはマリアを笑わせて、満足そうに微笑んでいたのだ。
——私がいつも、ジルベルトの目覚めも知らずに眠ったままだから? だらしのない私に、いい加減呆れてしまったのかしら……。
ジルベルトが眠るまで起きているマリアは、ジルベルトが寝台を抜け出す早朝には熟睡してしまう。そんなマリアを起こさぬよう気遣ってくれているのか、マリアが目を覚ました時はいつもジルベルトが部屋を出たあとなのだ。
叱られないのを良いことに、ジルベルトの優しさに甘えすぎていたのかも知れない——そんな後悔が胸をしめ付けるように押し寄せるけれど、今更どうすることもできない。
「ごめん、なさい……」
胸の前で両手を組んで、祈るように星空を見上げた。
もう秀麗なあの優しい笑顔を見ることは無いのだろうか。
綺麗な碧い瞳にマリアを映すことも、冗談を言って微笑うことも、良く眠れると呟いて、逞しい腕でマリアをそっと抱きしめることも……。
不意に目頭が熱くなり、こぼれ落ちた涙が頬を伝った。
星々の煌めきが滲んで、幾重にも重なって見える。