【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
木々の緑がさわさわと葉音を奏じるなか、真っ直ぐに差し込む陽の光が空間に明暗のコントラストを描く。
どこかに水場があるのだろうか。清々しい水音が「落ち着きなさい」と語りかけるように、マリアの張り詰めた緊張を和らげてくれる。
「こちらでございます」
長い外廊下の先に、まるで忘れられたような小さな部屋があった。
壁紙も貼られていない剥き出しの壁は無機質で触れると冷たく、豪奢で華やかな公爵家の屋敷とは風情がまるで違っている。
「ミラルダお嬢様、お連れいたしました」
木陰の下にいるような外廊下から明るい室内へと、一歩を踏み出した。
油絵の具の匂いと、聞き馴染んだミラルダの声——。
「久しぶりね、マリア……!」
布が掛けられた大きなキャンバスを背にしたミラルダが振り向けば、艶やかなブルーヴァイオレットの長い髪が光の下で踊る。