【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
1、長雨が終わりを告げるとき
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 マリアは戸惑っていた。
 まず、言いつけられた井戸がどこだかわからない。

『お店を出たら、すぐ裏にあるわよ』

 仕事仲間のミアは確かにそう言った——いつものように、マリアを嘲笑うような目をして。
 いったい何がそんなに可笑しいのだか、マリアにはわからない。

 それにマリアを笑うのはミアだけじゃない。ミアを取り巻く同年代の居酒屋店員イルマとゼノンも、ミアと一緒になって何かとマリアに絡んでくるのだ。

「ええっと、井戸、井戸……このへんにあるはずなんだけど」

 夕刻を過ぎた空には一番星が輝いている。居酒屋店の裏庭はうっそうとして、マリアは群青色の空気に包まれる——逢魔時(おうまがとき)だ。

 ——誰もいないし、暗くて怖いわ。

 店裏の井戸から水を汲んで来いとミアに言われた時も、ミアを挟む二人はニヤニヤとうすら笑いを浮かべていた。

 その笑いが何を意味するのか、マリアだってわからないわけじゃない。あの三人はいつでもマリアが失敗するのを待ち構えていて、何かあればすぐに店主に報告をする(あることないこと、三倍くらいの尾鰭を付けて)。

 もっと言えば、その失敗というのも『彼女たちが作り上げたもの』だと言ってもいい。マリアはいつも《《ハメ》》られるのだ。
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