貴公子アドニスの結婚

お褥下がりさせてください

「………は?」

アドニスは口をぽかんと開けて妻の顔を凝視した。
「…どういう、意味だ?」
やっとのことでその言葉の意味を頭に巡らせ、問い返す。

「当初のお約束通り、私は男子をお生みしました。だからもう、お褥下がりさせてくださいませ」
「な、何を言う!これは夫婦の当然の営みだ。何も、子を成すためだけの行為ではないだろう?」
「いいえ、子を成すためだけの行為だったはず。それならば、もう必要ないでしょう?条件通り、男子をお生みしたのですから」
「違う、違う!子を成すためだけではない!」
たしかに、最初は嫡子を生んでくれさえすればいいと思っていた。
だが、初めて夫人と触れ合ったあの夜、アドニスは開花したのだ。
こんな世界があったのだと。
あれ以来、彼女に触れるのは決して子を成すためだけではない。

「では…、なんのためですか?」
夫人がアドニスを見上げ、そう問うた。
相変わらず、その顔に表情はない。
「だから、それは夫婦の…、」
「夫婦だからといって無理に体を重ねることはございません。貴方と私には可愛い二人の子供もいて、家族としての絆も出来ました」
「それは、家族としてであろう?妻として、夫の体を鎮めるのも、」
「結局は、私の存在意義は貴方の性欲処理でございましょう?」
夫人は蔑むような目でアドニスを見上げた。
こんな妻の目は初めて見るし、何より美しい妻の口からこんな下品な言葉が出るなど信じられなくて、アドニスは目を見開いた。
「…なんということを…」
「私は性欲処理の道具ではございません。処理だけなら、どうぞ娼館でもお行きなさいませ。愛人を作られても文句は申しません」
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