貴公子アドニスの結婚
そんなラントン家の血を引く嫡男アドニスは、正に申し子のように育った。
高貴な生まれに輪をかけて、下手に見目麗しく育ってしまったため言い寄る女性は数知れない。
夜会などに出れば囲まれ、誘われ、断れば泣かれ、喚かれ、本当にうんざりしていた。
そのため彼は女嫌いになり、女性への蔑視は余計に酷くなった。
そして、笑顔を全く見せない『氷の貴公子』と呼ばれるようになったのだ。

見合いの席で、アドニスは自分の要求だけを相手に伝えていた。
まず、愛は求めないこと。
公爵家の家政に口をはさまないこと。
そして男子を生むこと。
その三つさえ守ってくれれば好きにしていていいし、金はいくらでもあるから湯水のように使ってくれてもいい。
なんとも簡単な条件である。
それなのに令嬢たちは、見合いをすればほぼ一回の顔合わせで断ってくる。
なんとか婚約までこぎつけた二人も、結局成婚まで至らずに解消した。
何故か。
時代は、変わりつつあったのだ。
今やこの国でも、多くの女性が男性と肩を並べ、学び、働いていた。
家の中に押し込められてただ夫のため子どものため家のために生きる時代は終わろうとしていたのだ。
女性たちはたとえ政略結婚であったとしても、夫婦関係に愛と信頼を求めた。
一人の人間として扱われることを、当然のことと考え始めたのだ。
そんな世の女性たちの変化に、男尊女卑の考え方で凝り固まったラントン家はまだ気づいていなかった。
アドニスのような男が受け入れられる世の中ではなくなったということを。
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