貴公子アドニスの結婚

見合い

アドニスの十数回目の見合い相手にラントン家が白羽の矢を立てたのは、ベルトラン子爵家の令嬢だった。
子爵家といってもベルトラン家は四百年以上続く由緒正しい名家である。
しかし善良で金儲けの下手な当主が続いたせいか、今は田舎の領地に引っ込んで名家であることだけを誇りにしているような家でもある。
普通の貴族令嬢なら十代で嫁ぐところを、二十歳の彼女は軽く行き遅れの部類だ。
それは、社交下手で商売下手な現当主が娘に持たせてやる持参金を作るのにも苦労していたからだ。

ラントン家が彼女に目を付けたのは、正にそれが理由だった。
持参金はいらない、かえって莫大な支度金を支払おうと言えば飛びついて来るはず。
しかも筆頭貴族のラントン家に申し入れられて断ることはなかなか出来まい。
それに、田舎育ちというのもいい。
都会で育った令嬢たちは今、夫婦愛家族愛、そして女性の権利を声高に唱えている。
しかし田舎で育った令嬢ならば、古き良き時代の貴族的な考え方を持っているであろう。
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