始まりの音
一瞬幽霊かと思って奇声を発しそうになったが、街灯に照らされている彼女からは、ちゃんと影が伸びている。
人だよな? と、更にジャングルジムに座る彼女をまじまじと観察した。
短パンの先は、細くて華奢な脚が伸びている。
逆にこんな人気のない薄暗い公園で、人間がいることの方が違和感を覚えてしまった。
こんな夜中に物騒だな。
そう思いながら、自分も夜中にジョギングしてるんだから同じだなと、そこにポツンと寂しげにあったベンチに腰かけた。
額から流れる汗をTシャツの袖で拭き取り、ペットボトルの水を勢い良く飲み干した。Tシャツの襟元を掴み、パタパタとして胸元に風を通してみるが、夏の夜の風は生ぬるく、それほど僕をクールダウンさせてはくれなかった。
ジャングルジムの上にいる彼女は、不安定な鉄骨に腰掛けたまま、ただ天を仰いでいる。まるで置物のようだ。
それに、置物のような彼女は、僕の存在には気づいていなさそうだった。
見上げれば、曇りの夜空には星一つ輝いてはいない。
そんなぼやけた空を見上げて、一体何が楽しいんだろう。
翌日も、そのまた次の日も、ジャングルジムの上に彼女はいた。
腕時計を確認すると夜中の3時過ぎだ。
ほとんど彼女の後ろ姿しか見たことがなかったが、何となく、僕と同い年ぐらいの年齢に思えた。