花婿が差し替えられました
アリスの父がコラール侯爵家に苦情を申し入れて以来、レイモンはアリスに近づかないよう見張られている。
やっと次男ナルシスの奇行がおさまってきたら今度は三男レイモンの求婚騒ぎだ。
長兄パトリスはほとほと出来損ないの弟たちに手を焼いているのだろう。
レイモンの件はまだ世間には伝わっていないものの、それでも勘のいい輩はレイモンのアリスに対する狂気じみた瞳に気づいていると思われる。
そんな者たちの間で、アリスは三人の兄弟を虜にして惑わす悪女のように語られているのだが、そんなことはアリスの知ったことではない。
この次期コラール侯爵に、しっかり弟たちを見張っていて欲しいだけだ。

「私はこの後約束がありますので失礼しますわ、お義兄様」
「ああ、気をつけて、アリスさん」
レイモンがまだ何か言いたそうにしていたが、多勢の者がまだ残っているこの部屋でアリスに迂闊なことは言えないだろう。
アリスはパトリスに挨拶すると、足早にその場を去った。

アリスがこの後約束があるというのは、あながち嘘ではなかった。
仕事で王宮に来た時は顔を出して欲しいと、王太子妃ゾフィーから言われているからだ。
それにその後は、クロードが王宮に迎えに来ることになっている。
今日クロードはいわゆる夜勤明けで、今頃はぐっすり眠っているはずだ。
だから王宮まで送ることはしなかったのだが、帰りは迎えに来ると言っていた。
その後は、外で夕食をとろうと約束していたのだ。
最近のクロードは、こうしてアリスの送迎をしたり、ちょっとしたデートに誘って来る。
彼なりに、離縁するその日が来るまで誠実な夫であろうとしてくれているのだろう。
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