花婿が差し替えられました
「実は明日ゆっくり話し合うつもりでしたが…、婿入りしてくださったからと言って、私はクロード様に騎士をやめていただくつもりはございません」
「それは、どういう…?」
「サンフォース家の切り盛りは今まで通り私が行います。貴方に事業や領地経営に関わっていただきたいとは思っておりませんので、どうぞクロード様はこのまま騎士の道を精進くださいませ」
アリスの言葉に、クロードは酷く驚いた顔をした。

「騎士を?だが、貴女は事業や領地経営に役立つ配偶者が欲しかったのでは?」
兄ナルシスは女癖は悪かったが、飛び抜けた話術と社交性で男女問わず人の心を掴む要素があった。
きっと傍に立っていればそれなりに役には立っていたことだろう。
だが、アリスはクロードにそれさえも求めないようだ。
「それは、私が事業については素人だから、役立たずだということですか?」
仏頂面でたずねるクロードに、アリスは首を傾げる。
(騎士を続けていいと言えば喜ぶと思ったのに、おかしいわね)

「クロード様は優秀な騎士だとお聞きしております。そんな方を伯爵家に婿入りしたからと言ってやめさせてしまうのは王国にとっても損失です。それに、騎士として身を立てるのは貴方の夢だったのでしょう?」
「何故、それを…、」
「ナルシス様からお聞きしましたわ。一応、一年余り婚約者でしたから」
「兄の名前を、サラッと出すのですね」
「それは…、そもそもこんな事態になっているのはナルシス様のせいですし。とにかく貴方が騎士までやめて犠牲になることはないと私は、」
そこまで言ってアリスは口を噤んだ。
たしかに初夜の場で、しかもベッドの上で他の男の名前を出すのはさすがに無神経だったと思ったから。
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