花婿が差し替えられました
馬車がコラール家のエントランスに到着すると、クロードは先に降りてアリスに手を差し出した。
「アリスじょ…、アリス、手を」
「ありがとうございます、旦那様」
呼びかけを言い直したクロードに、アリスはにっこり微笑む。
ここに来ることが決まった時、アリスはまずクロードに呼び方を変えるよう話した。
結婚して半年も経つのに、夫が妻の名前に嬢を付けるのはおかしいだろうと。
呼び捨てに慣れなくて来るまでの馬車の中でも練習したのだが、何度も口籠もる彼の様子がちょっとだけ可愛かった。

今日のアリスは鮮やかなブルーを基調にしたドレスを着ていて、彼女の華やかな雰囲気に良く似合っていた。
クロードもまたいつもの隊服とは違って黒い夜会服に身を包み、アリスのドレスと同色のタイを締めている。
どこからどう見ても、爽やかな貴公子だ。
美男美女の二人が正装して並び立つ様はなんとも煌びやかで、いつもはクロードに対して激辛口のフェリシーさえ賞賛していた。

ホールに足を踏み入れると、先に着いていた招待客たちが一斉にこちらを向いた。
皆、初めて公の場に二人揃って顔を出すサンフォース伯爵夫妻に興味津々なのだ。
何せ、あの嵐のような結婚式以来なのだから。
あんな形で結婚した二人のその後は、社交界では絶好の噂の種になっていたはずだ。
相変わらず事業に忙しい妻と王女の護衛騎士になった夫の夫婦仲が上手くいっているはずもなく、離縁も秒読みだと言われているらしい。
然もありなん、とアリスは思う。

「やっぱり、ジロジロ見られていますね」
居心地が悪そうに、クロードが呟いた。
「旦那様が凛々しいからレディたちの目が釘付けなのですわ」
「そ、それを言うなら貴女の方でしょう。貴女が美しいから、紳士たちが皆貴女を見ているんだ」
(あら)
アリスはそっと隣を伺った。
クロードは緊張した面持ちで、ジッと前を見据えている。
(無自覚ね)
他人から『美しい』と賛辞されるなど日常茶飯事のことだが、クロードの口から聞くのは初めてのこと。
だが彼は、今自分が言ったことさえ気づいていないだろう。
意図せず溢れてしまった言葉が、アリスにはちょっと嬉しかった。

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