花婿が差し替えられました
その後は、夫婦揃って挨拶まわりをした。
結婚式以来初めて会う義両親はバツが悪そうだったが、なんとか繋ぎ止めた嫁を大袈裟に歓待してくれた。
長兄パトリスの夫婦と三兄レイモンに挨拶すると、彼らからもあらためてナルシスの件を謝罪された。
もちろん、今日の夜会にナルシスの参加は拒否されている。
実はあれからも、アリスはナルシスに迷惑をかけられ続けているのだから。

この半年、元婚約者ナルシスから、山のような手紙と贈り物が届いている。
もちろん手紙は封を切らず、贈り物もそのまま、コラール侯爵家に送り返している。
中身を読んでいないから想像でしかないが、多分復縁を望む内容なのだろう。
あの騒ぎの後すぐに妊娠中の恋人と婚約して結婚すると思われていたナルシスなのだが、実はすぐに婚約を破棄していた。
なんと例の令嬢の妊娠が、彼女の想像妊娠だったと言うのだ。
それでも侯爵家では結婚を強行しようとしたのだが、ナルシスは勝手に婚約を破棄してしまった。
いくら妊娠していなかったとは言え、ナルシスのお手付きであることは王都中に知れ渡っているのだから、その令嬢だってこれからの婚活は難しいだろう。
しかし令嬢自身も、もうナルシスとやり直す意思はなかったようだ。

そう、何故かナルシスは未だアリスに未練たらたらで、あの花婿差し替え自体誰かの陰謀だと信じているのだ。
だから復縁しようというナルシスの言い分なのだが、すでに義妹になっているアリスに堂々と言ってくるのが非常識な彼らしい。
クロードにも「アリスを返せ」などと言ってくるらしいが、彼は華麗にスルーしている。
コラール侯爵家でもナルシスに監視を付けているらしいのだが、なんとか監視を掻い潜って手紙や花、装飾品を贈りつけてくるようだ。
まさかこの場でアリスに接近するようなことは無いと思うが、用心に越したことはない。

あれだけの騒ぎを起こしながらそれでもまだ彼がある程度自由にしているのは、彼の母親がナルシスを溺愛しているのが原因らしい。
母親は四人の息子たちを生みながら、何故かナルシスだけを溺愛しているのだ。
それはアリスも、彼と婚約中から感じていたことだ。
しかしあれ以降もアリスに迷惑をかけ続けるナルシスを、コラール侯爵家はようやく勘当同然に追い出すつもりになったらしい。
最近は社交界にも出さず、ほぼ軟禁状態だと聞く。
本当は平民でもいいからと婿入り先を探していたが、これがかなり難航しているらしいのだ。

「あとは無理矢理修道院に送るしかないかな」と呟いていたのは、長兄のパトリスだ。
数多の女性たちと浮き名を流した『ミツバチ』様も、どうやら年貢の納め時らしい。
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