花婿が差し替えられました
「本当はね、私が貴女の夫になりたかったのですよ」
「……は?」
レイモンの言葉に、アリスは目を大きく見開いた。
「でも、貴方には婚約者が…」
「それこそ、クロードの婚約者に差し替えればよかったんですよ。だってクロードのような脳筋、貴女には何の役にも立たないでしょう?あの時クロードが断固拒否すれば私に花婿の座が回ってきたかもしれないのに、結局はあいつが受けてしまって…」
「クロード様は脳筋なんかじゃありませんわ。歴史にもお詳しいし、テルル語にも堪能ですし…」
「アリスさんは、クロードが何故テルル語が堪能かご存知じゃないんですか?」
「…どういう意味ですか?」
「現在ルイーズ王女の婚約者はタンタルの第ニ王子ですが、二年前まではテルルの第三王子に嫁ぐ予定だったのですよ」
「…ええ」

その話はアリスも聞いたことがあった。
元々ルイーズ王女は幼い頃にテルルの第三王子と婚約を結んだのだが、その後王子が病弱を理由に婚約の解消を申し入れてきたらしい。
しかし実は病弱というのは嘘で、本当は自国の貴族令嬢と恋仲になったせいだという。
それに、わがまま娘と評判のルイーズ王女と結婚するのを嫌がったという噂もあるのだ。
困った国王は新たに王女の嫁ぎ先を探したのだが、なかなかいい相手が見つからない。
自国の貴族に降嫁させようとしても『もったいない』と辞退する家ばかり。
やっと見つけたのが、タンタルの第二王子の、後妻の口だった。
タンタル王子はルイーズより十三も年上だが、わがまま娘にはかえってずっと年上の男の方がいいだろうとの判断であった。
輿入れはルイーズが十六歳を迎える来年以降ということになっている。
ようやく見つかった輿入れ先に国王は安堵したが、しかし隣国の、しかもずっと年上の男性に嫁ぐ娘を憐れに思ってさらに甘やかしているのは否めない。
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