花婿が差し替えられました
「実はサンフォース領を出たところで、奥様が乗った馬車が襲われたのです」
「何⁈」
クロードは血相を変えて立ち上がった。
「何故それを最初に言わない⁈それで、アリスは⁈」
「ああ、奥様はご無事です」
無事と聞いて胸を撫で下ろしたクロードではあるが、何故アリスが襲われるのか、何があったのかラウルに問いただした。
それにサンフォース領を出たところと言えばコラール侯爵領。
つまり、クロードの実家が治める領地である。
クロードの不安を感じとったのか、ラウルは首を横に振ってこう話した。

「ああ、いいえ、襲撃にあったのはコラール侯爵領ではありません。コラール領に入る前に立ち寄った王家の直轄領です。今回は鉄道事業の反対派の仕業でした。鉄道を敷くため立ち退きを余儀なくされた住民らの過激派で、陰で煽る者がいたのでしょう。どこから漏れたのか、サンフォース家の馬車が通るのを知っていたようです。きちんと話し合いを重ねて十分賠償金も支払ってるのに酷い話です。しかも最終的に決めたのは王家だろうに、お嬢を襲うとはお門違いにも程がある」
話しているうちだんだん興奮してきたラウルは不敬ともとれる発言をしたが、クロードはもうそんな些細なことはどうでもよかった。

「今回はと言ったが…、まさかこんなことが以前にもあったのか?」
クロードの問いに、ラウルは片方の口角を上げた。
「旦那様は本当に何も知らないんですね」
「……何?」
「正直に言えば、お嬢が襲われたのは片手では足りません。サンフォース家程手広く事業をやっていると、知らないうちに恨まれたり妬まれたりしてるんですよ。それにお嬢は商談などであちこち遠方にも出かけてますから、山賊に襲われたことだってありますしね」
「山賊、だと…⁈」
そう叫ぶと、クロードは驚きの余り絶句した。

あの華奢な人が何度も襲われている⁈
それなのに何故誰も彼女が出かけるのを止めないのだ。
しかも父親は早々に引退して娘に事業を譲っている。
本来なら心配で邸から出さないのが本当ではないか。
「ああ、旦那様が考えていることならなんとなくわかりますが、お嬢を止めるのは無理ですからね。それに、お嬢には騎士団並みの傭兵が付いてますから、今までも傷一つ負わせたことはありません。実は私も、侍女のフェリシーも傭兵上がりですしね」
そう言うと、ラウルは悪戯っぽく笑ったのだった。
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