花婿が差し替えられました
日を少し遡りーー。

休暇を過ごすために故郷のサンフォース領に帰ったアリスは、久しぶりに会う両親と穏やかな日を過ごしてきた。
領地に着くまでは精力的に仕事を熟していたが、実家にいる間の二週間は、普通の娘のように両親に甘えて生活してきたのだ。

「婿殿はどんな塩梅だ?アリス」
領地に着いた日、アリスは父からそう聞かれていた。
一見温厚で一人娘を溺愛しているように見える父だが、領地経営と商売には百戦錬磨の強者である。
早くに地位を譲ったのは、それだけ娘アリスの才覚と、その周囲に使えるようにラウルたちを信じきってのことである。

「今旦那様は、王女殿下に付いて離宮に行っておりますわ」
アリスは父にそう答えた。
王女の護衛騎士になったことはその時点で伝えてある。
それを聞いた父は苦虫を潰したような顔になる。
「…本当に、事業には全く役に立たない婿殿だ」
「いいんです。私がそう望んだんですから」

離縁前提であることは、もちろん父には話していない。
そんなことを話したら、父はすぐに離縁してもっといい男をつかまえろと言うに違いない。

「ところでな」
ここにはアリスと二人だというのに、父が声をひそめるようにしてそう言った。
「…何かありましたか?」
「いや…、実は昨日、コラール家の三男が邸に来てな」
「三男…?レイモン様ですか?」
レイモンなら王都を出る前に商談で顔を合わせている。
その時自分も近々領地に帰る予定があり、サンフォース領とは隣り合わせなので、寄らせてもらうとか何とか言っていたかもしれない。
しかしいくら親族になったからといって弟がいないのにその嫁の実家を訪ねてくるのはおかしな話だ。
だからあれは社交辞令かと思っていたのに…。

「それで、レイモン様は何の用でここに来たのですか?お父様が私に会わせなかったのには、何か理由があるのでしょう?」
「それがな…」
父は言いづらそうに眉を顰めた。
「実は、おまえに求婚するために来たと言っていたんだ。だから、おまえに会わせずに追い返した」
「………はぁ?」
< 88 / 156 >

この作品をシェア

pagetop