その恋、まぜるなキケン



目を開けると、いつもの真っ白な天井が飛び込んできた。


そして扉の隙間から美味しそうな匂いが入ってきて、旭のお腹が大きく鳴る。


丸一日まともに飲食していないからか、ベッドから起き上がった瞬間フラフラして足に上手く力が入らない。


倒れないように壁寄りを歩きながら、旭はリビングへ向かった。


「旭!もう起きて大丈夫?いま水用意するね!」


扉から入って来た旭を見るや否や、キッチンで料理をしていた真紘がバタバタと動き始める。


そんな彼女を止めるように、旭は真紘を後ろから抱きしめた。


真紘は「大丈夫?」と言いながら腰に回された旭の手に自分の手を重ねる。


肩口に顔を埋めて深呼吸すると、安心する真紘の匂いがした。


「間に合わなかった……」


旭はたったひと言そう言った。


彼が眠っている間に綾人から大体の経緯を聞いていた真紘は、それがなんの話なのか分かっていた。


「……旭が無事に帰って来てくれれば私はそれだけで十分。全部1人で抱え込まなくていいんだよ?」


亮太だって、綾人だって、もちろん真紘だっている。


旭は1人じゃないのだ。


ぐぅぅぅ——


その時、旭のお腹から悲鳴のような音が鳴った。


「ふふっ。旭、お腹減った?」


「……うん、超減った」


真紘はサラダの器からミニトマトを1つ摘み旭の口に運んだ。


「甘ッ!」


「うそー!私も食ーべよっと!」


真紘がトマトに手を伸ばそうとすると、それより先に旭は彼女の顎に手を添え優しく口付けた。


「……全然味分かんないよ」


真紘はゆっくりと旭の方に向き直り、何か期待するように言った。


「……分かるくらいしていい?」


「……ご飯が炊けるまでならいいよ」


自分から誘ったくせに照れくさそうにする真紘の可愛さに旭の頬も自然と緩む。


両頬を優しく包み込み、目を閉じた真紘にゆっくりと自分の顔を近づけた。


もう泣き言なんて言ってられない。


こんな穏やかな日常が続くように、一刻も早く全てにケリをつけようと決心した旭だった——。
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