その恋、まぜるなキケン

焦燥




住所不定無職の男が殺害された事件は、犯人不明のまま引き続き捜査がされている。


実際、犯人は分かりきってはいるが、証拠がない以上おそらく晃を逮捕することは不可能だ。


そして事件から数日後、真紘はいつものように晃に呼び出され、本家を訪れていた。


犯人は今目の前にいるのに、何もできない自分がもどかしく、真紘は薄ら笑いを浮かべる晃をただ睨みつけるしかなかった。


「なんでそんな怖い顔してんだよ。なんかあったのか?」


晃は完全に面白がっていた。


真紘はどの口がそれを言うのかと叫びそうになるのをどうにか堪える。


「……別に何も」


「なら早くこいよ」


いつまでもドアの近くに立っていた真紘が呼ばれ、一歩踏み出した時だった。


コンコンコン——


「代行、入ります」


ノックの後に旭がドアから顔を覗かせた。


「そろそろお時間です」


旭は外でずっと会話を聞いてくれていたのではないかと思うくらいのタイミングだった。


「……チッ」


晃は怠そうに立ち上がり、「行くぞ」と真紘にも声をかけ部屋を出た。
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