その恋、まぜるなキケン
「でも旭は不起訴だったんでしょ……?それなのにどうして綾人はまだ彼を疑ってるの?どうしてこの事件を追ってるの?」


警察官としての正義感や責任感だと言われればそれまでだが、こんなにも旭1人に執着するのは他に何か理由があるとしか思えなかった。


「……その殉職した警察官っていうのが、当時同じ交番にいた俺の先輩なんだ」


「それって……」


真紘は今日、一体何度言葉を失ったのだろう。


ここ数年、ずっと綾人の隣で一緒に過ごしていたのに、自分は彼のことを何も知らなかったことを痛感した。


2年前は既に綾人と付き合っていたのに、彼からそんな話はひと言も聞いていない。


綾人の悲しみにも気付いてあげられなかった。


そんな大切な人を失ったのなら、彼が事件を追い続けるのも分かる。


でも……。


「旭がそんなことするはずない!絶対何か裏があるんだと思う!」


「真紘がそう信じたいならそうすればいい。俺はただ、アイツが犯人だという証拠を見つけ出すだけだから」


綾人は先に寝るねと言い残し、寝室へ行ってしまった。


彼の覚悟は生半可なものではなかった。


本気で旭を犯人だと思って動いている。


例え婚約者の真紘と言えど、横から口を挟める雰囲気ではなかったし、何を言ってもきっと耳を貸さないだろう。


その日2人はお互い反対方向を向いて寝た。


こんなに近くにいるのに、心はとても遠かった——。
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