その恋、まぜるなキケン
旭が待ち合わせのカフェに着くと、先に来ていた真紘は席に座って待っていた。


彼女がスマートフォンを見ながら前髪を整えている様子がガラス越しに外から見えて、旭の心はズキッと痛む。


「……ごめん遅くなった」


「全然大丈夫だよ!旭は何にする?」


遅れてやって来た旭にメニューを渡すと、すぐに店員を呼んでカフェラテを注文した。


そして店員が席を離れてすぐに、旭は何の前振りもなく本題を話し始める。


「金輪際、俺には関わらないでほしい」


「え……?今なんて……?」


あまりに突然のことすぎて、真紘は彼が何を言ったのか理解することができなかった。


「真紘の婚約者、警察だよな?警察とは関わりたくないんだよ。前に俺がヤクザだってちゃんと言っただろ?真紘も結婚控えてるなら身辺調査とかで引っかかるだろうし関わる人間は選んだ方がいい」


真紘の顔がみるみる曇っていく。


綾人が警察官だということを黙っているつもりはなかった。


しかしこの間は旭と再会できた喜びと驚きで、それどころではなかったのだ。


「何でそのこと……」


「警察が俺を調べてるように、俺らも警察のことを探ってるから。それくらいすぐに分かるよ」


綾人本人から聞いたと言わなかったのは、旭なりの気遣いだった。


そのせいで真紘と綾人の間に亀裂が入るなんてことは望んでいないから。


むしろ真紘には、このまま真っ当な道で幸せになってほしかった。


「私のせいで旭に迷惑かけてたならごめん……。そこらへんのこと、まだちゃんと分かってなくて……」


本人から話を聞いた今でも、未だに旭が〝ヤクザ〟だということにピンときていない真紘は、ヤクザの世界のことなんてほとんどフィクションでしか知らない。


しかし、真紘の存在や言動が、彼の今後の人生や命までも左右しかねないほど危険な世界なんだと知り、真紘は恐怖で手の震えが止まらなかった。
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