その恋、まぜるなキケン



結局旭は夕方近くまで真紘の病室にいた。


いい加減仕事に戻るため、今度こそ真紘に別れを告げて駐車場へ向かう。


すると、ちょうど病院に戻って来て車から降りた綾人とも目が合った。


何か話があるのか、真っ直ぐ旭の方へ向かってくる。


「事故を起こしたやつは下田組の人間だった。下っ端だけどな。ボーッとしていたって供述しているらしいが、それでたまたま真紘が巻き込まれたなんて、そんな偶然あるとは思えない」


「ターゲットは真紘か。マークされてるな……」


旭は自分の拳を握りしめた。


下田組は旭のいる杉本組とは敵対する組織。


真紘が旭と一緒にいるところを見て、ターゲットにされた可能性が高い。


俺のせいだ……。


これはまだほんの始まりだと思っていい。


今回は命に別状がなかったものの、この先は何が起こっても不思議じゃない。


「おそらく家も特定されてる。しばらく避難できる場所が必要だ。協力してくれ」


「協力っつったってなぁ。俺に一体どうしろと……?」


「あるだろ、お前のセーフハウス」


旭は開いた口が塞がらなかった。


誰にも話していない、組の人間にも隠している旭のセーフハウスの存在を、綾人には把握されていたのだ。


警察は馬鹿みたいにただ旭に張り付いているだけかと思っていたが、色々と情報は掴まれていたのだ。


「うっわ……俺ちょっと刑事さんのこと見くびってたかも。オミソレイタシマシタ」


「しばらくセーフハウス(そこ)で真紘を(かくま)ってくれ。残念ながら、警察じゃ真紘を守りきれない……」


元はと言えば、旭の気が緩んでつい真紘と関わりを持ってしまったせいで、彼女をヤクザ同士のいざこざに巻き込むことになった。


その落とし前はつけるつもりだ。


「でもいいのかよ。一時的とはいえ、仮にも元カレの家に婚約者を住まわせるって。普通ありえないだろ」


だからと言って他に選択肢もないのだが、そんなことは分かっていてあえて質問した。


諸々が悔しかったのでそのお返しだ。


「それは無駄な心配だな。俺たちはもうそんなことで揺らぐ程度の仲じゃない」


「はいはい惚気話は結構でーす」


旭は意地の悪い質問をしたことを後悔した。


予想に反してそんなに自信をもって答えられると、逆にこっちが凹んでしまう。


でも納得だった。


なぜなら、綾人と真紘は誰が見てもお似合いのカップルだったから。
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