その恋、まぜるなキケン
旭がむしゃくしゃしてタバコに火をつけると、綾人も電子タバコを取り出した。


「刑事さんもタバコ吸うんだ」


「たまにな」


元カノの婚約者であり、しかも自分のことを逮捕しようとしている男とタバコミュニケーションなんて、カオスにもほどがある。


異質なスーツの男2人が無言で一服していると、綾人が思い出したように口を開いた。


「……お前が2年前の事件の重要参考人だってこと、真紘に話した」


「だろーな。刑事さんは絶対話すと思った。婚約者ならなおさら」


「……真紘は信じてたぞ。お前がそんなことするはずないって」


「え……?」


『そんなはずない!』と、あの澄んだ目で言い切る真紘の姿が目に浮かび、旭はフッと微笑んだ。


あの事件の日、当時の若頭・杉本将也の第一発見者は彼の若頭補佐をしていた旭だった。


現場付近は浮浪者やならず者しかいない退廃した無法地帯で、防犯カメラやまともな目撃者はいなかった。


そしてその日、旭以外の組の人間には全員アリバイがあったのだ。


結局事件は将也の自殺として処理されたものの、当時組の中での旭への風当たりは強く、特に死んだ将也の腹違いの弟・杉本(すぎもと)(あきら)は、まるで旭を犯人に仕立て上げたいかのようにそれを面白がった。


組の中でも旭の無罪を信じてくれる者はいたし、別に真犯人が捕まりさえすれば自分が疑われることは構わないと思っていた。


それでも、こうして味方がいてくれることを知れるのは嬉しかった。


「何でその話を俺に?」


「なんとなく、だ」


綾人は空に向かって煙を吐き出した。


彼が一体何を思っているのか、旭はまだイマイチ掴めなかった——。
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