その恋、まぜるなキケン
バタンと閉められた扉をしばらく呆然と見つめていると、彼女に近づく者がいた。


「どうして中に入れたんだろうって顔してるわネ」


「!?」


話しかけてきたのはバーのマスターらしき人で、見た目は《《男性》》の格好をしている。


今日で来るのは2度目だったが、前回旭に連れられて来た時は、正直それどころじゃなくて、店のことは全く覚えていなかった。


「あなたが真紘ちゃんね?もしあなたがここへ来ることがあったら(かくま)ってくれって旭から頼まれてるの。だから外が落ち着くまでいていいからネ。何か飲む?」


「だっ、大丈夫です……!」


色々と理解が追いつかなくてそれどころではないし、亮太のことも気になって落ち着いてはいられない。


真紘は直接見ていないから相手の人数すらも分からないが、例え何人だとしても、ヤクザを1人で相手にするのが危険で無謀なことは分かる。


「まぁ一旦落ち着きなさいよ。ほら、これでも飲んで」


マスターはティーカップにハチミツレモンを用意してくれた。


香りだけでも心が安らぐ。


「……ありがとうございます」


真紘が静かに飲んでいると、マスターがカウンターに肘をついてニコニコしながら見つめてきた。


「あの、なにか……?」


「ねぇ!旭と真紘ちゃんって、もしかして……♡?」


それは2人の恋愛関係を期待している顔だった。


「元、恋人です。高校の時の」


「高校生!いいわねェ♡旭ってどんな高校生だったの?」


「今とあまり変わらないですよ?みんなを楽しませるムードメーカーで、自分のことなんて後回しにいつも誰かのために動いてました。でも1人で全部抱え込もうとする危なっかしいところがありましたね」


彼は家族のために自分を犠牲にして、今も危ない橋を渡り続けている。


やめてなんて言えないし、そう簡単にはいかないだろうけど、それならそれで、誰かがずっとそばにいて、彼を支えてあげてほしい。


「ふぅ〜ん。それじゃあ今はまた真紘ちゃんがいるわけだし、あの子も心配ないってことね!」


マスターがまたニヤニヤしながら意味ありげな反応をしたから真紘は慌てて言い足した。


「いえッ!私はただの同級生ですし、今は事情があって一緒にいるだけで……」


真紘がこれから先、彼の隣に居続けることはできない。


こんなことになっていなければ、きっと今頃は綾人と結婚していたはずだから。


今はそれが少し延期になっているだけ。
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