その恋、まぜるなキケン
♪♪♪


電話の着信音のようなメロディーが流れた。


自分だと気づいた真紘がポケットからスマホを取り出そうとゴソゴソしても、旭は唇を離さない。


それどころか、さっきよりもその深さは増していた。


真紘はそのままひとまず電話が誰からかを確認した。


「んんッ!お母さんッ……だからッ!」


画面の〝お母さん〟の文字を見て、真紘は旭を無理矢理引き剥がしてベッドから抜け出した。


「もしもし?」


旭は、真紘が話しながら部屋を出ようとするのを目で追いかける。


熱のせいなのかボーッとして、自分が何をしでかしたのかよく分かっていない様子だった。


しかし「ダメッ!」という真紘の声で目が覚めて、一体何事かと心配そうに彼女の方を見た。


真紘は旭の方を振り返り、耳からスマホを離して小声で言った。


「お母さんが、私の家に行ってもいいかって……」


今真紘の自宅は下田組に把握されていてもおかしくない。


そこに近づくことがどれほど危険なことか、真紘ももう分かっているからこそ過剰に反応してしまった。


巻き込まないためにも、無関係な人間は近づけてはいけない。


旭はスマホのメモに打ち込んで、その画面を真紘に見せた。


〝婚約者と同棲してる〟


画面を見た真紘は頷いて電話をスピーカーにして母との話を続けた。


「お母さん、実はね。私もう綾人と一緒に住んでて……」


『えぇっ!?そうだったの?もぉ、そういうことはちゃんと言いなさいよ〜じゃああの家は?』


旭が再び画面を見せる。


〝引っ越してる もう他の人が住んでる〟


「あそこは引き払ったの。もう別の人が住んでるから、だからお母さん絶対行かないでよ!?」


『行く前に連絡しといて良かったぁ。綾人くんは?今近くにいるの?』


真紘が目の前の旭を見ると、彼は居心地の悪そうな顔をしていた。


「……綾人は出かけてるからいないよ」


『そう。お仕事忙しいんでしょ?無理しないでって伝えてね。もちろん真紘も!2人でまた遊びに来てね』


「うん……ありがとね」


電話を切ってから、真紘の心は罪悪感で埋め尽くされた。


何も知らずに優しい言葉をかけてくれる母親を騙しているのが何よりも心苦しかった——。
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