その恋、まぜるなキケン
「……じゃあなんであの日、キスなんかしたの……?」


「……あれは、キスしたくなったからしただけ。たまたまそこに真紘がいたから真紘にしただけ。ただ欲求を満たしたかっただけだよ」


真紘は言い返す言葉を必死に探した。


でもそう言われてしまえば、もう納得するしかない。


〝キスは付き合う人とだけ〟なんてそんな初心(うぶ)な時代はお互いとっくに過ぎてしまったから。


旭は真紘の方に近づき、またキスをしながら彼女のブラウスのボタン外そうとした。


しかし真紘に手で止められて、今度はスカートに手を這わせて(まく)し上げようとしたが、これも抵抗される。


「ねぇ、待って!これもまた〝欲求〟で片付けるの……?」


「だって真紘は俺のこと好きなんだろ?俺も、なんか誰か抱きたい気分だからさ。ウィンウィンじゃん。いいだろ?シよ」


そう言って再び旭の顔が近づいてくる。


誰でもいいから性欲を処理したいという言い方。


わかっている、きっとこれは旭の本心ではない。


ただ真紘に自分のことを諦めさせようとしているだけだ。


真紘は「そうだね」と言って彼の首に手を回し、自分も顔を近づけた。


すると、唇が重なる寸前に真紘の口元は旭の手で塞がれた。


「……いや、マジになるなよ。そうやって来られると萎えるわ」


真紘は自分の部屋に向かった旭の背中に叫んだ。


「迷惑だって言われても諦めないから!もう離れないって決めたから!」


彼の心にどれくらい響いているかは分からない。


でもこちとら婚約も破棄してきたのだ。


もう失うものはないし、傷つく覚悟もできている。


自室に戻った旭はザッザッと足を引きずってそのままベッドに頭から倒れ込んだ。


〝旭のことが好きだから〟


真紘は確かにそう言った。


「ダメだって……」


旭はニヤけてしまいそうになる頬を引き締めて、枕に顔を押し当てた——。
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