その恋、まぜるなキケン

作戦

「ほわぁぁぁ。真紘さんお休みなのに相変わらず早いっすねぇ。おはよーございます」


真紘が朝ごはんの用意をしていると、大きなあくびをしながら亮太がキッチンに顔を出した。 


「亮太くんおはよ!パンでいいよね?ハムエッグも焼くけど食べる?」


亮太はグーと親指を立てた手を前に差し出して、洗面所の方へ消えて行った。


目はまだ半分しか開いていなかった。


亮太は朝が弱いため、朝ごはんを含め料理は真紘が担当することがほとんどだ。


その代わり彼は掃除をしてくれる。


恋人同士ではないため、洗濯はそれぞれで回していた。


亮太が再び戻って来た頃にちょうど準備も整った。


向かい合って席に着き、いただきますと手を合わせて食べ始める。


「……真紘さん、アニキとなんかあったんすか?」


トーストを一緒に頬張りながら、亮太が真紘に問いかけた。


「うーん……あったかな。うん、結構何かあったね」


真紘はことの経緯を話し始めた。


旭と再会して、一緒に過ごしている中で彼の存在が自分の中でまたどんどん大きくなっていったこと。


キスを拒まなかったこと。


自分の気持ちを見て見ぬふりができなくなったこと。


「えー!じゃあ結婚はナシになったんすね!」


「ふふっ、何でそんな嬉しそうなの?」


真紘は自分がなぜこんな期待や希望のこもった眼差しを向けられているのか分からなかった。


「だって、あの刑事さんには申し訳ないけど、俺はアニキと真紘さん推しなんで」


なるほど、旭を慕っている彼らしい理由だった。


「でも肝心の旭は、私のこと何とも思ってないみたいだから、本当にただの迷惑な片想いなんだろうけどね」


あくまで明るく振る舞う真紘に、そんなことはあり得ないと亮太は心の中で断言した。


旭が今までどれほど真紘のことを想っていたか、真紘を遠くから見守る時にどんな表情をしているのか、彼女は知らないからそう思うのだ。


自分よりも年上なのに、全く世話が焼ける人たちだと亮太は呆れた。


「しょうがないんで、俺が一肌脱ぎますよ!」


「というと……?」


意気揚々と語られた亮太の作戦は、ドラマの見過ぎだとツッコみたくなるようなシナリオだった。


そんなことをしても何の効果もないだろうというのが真紘の素直な感想だった。


しかし自分のために張り切ってくれている亮太が可愛く思えて、真紘はその話に乗ることにした。
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