新婚なのに旦那様と会えません〜公爵夫人は宮廷魔術師〜

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「えっ……レティシア様が!?レティシア様はご無事なのですか!?」
「あぁ、怪我はなかったようだ。しかし身の危険を案じて、発火事件が起きて直ぐに隣国へと帰国なされた」

レティシアの無事を知り、シルヴィアは胸を撫で下ろす。

「そして今朝新たに、レティシア様のお部屋に飾られてある絵の中に、謎の文字が浮かび上がるという現象が起きていた」
「怖いですね……」

言いながらシルヴィアは身を震わせる。
レティシア不在とはいえ、何故同じ部屋から不可解な現象が起こり続けるのか──


「絵に浮かび上がった文字を解読するようにと、殿下からのお達しなんだ。絵は別室に移動済みらしく、今から文字を書き写しに行こうと思ってな。さっそくで悪いが、手伝ってくれないか?」
「勿論です。それにしても誰がそのようなことを……。レティシア様が、殿下の婚約者であることに不満を持つ者の犯行でしょうか?」
「その可能性は高いとみている。それか隣国との亀裂を産もうと企てる、何者かによる犯行か……」
「そんな……」

王族の政略結婚における重要な目的の一つは、和平にある。王族の血が流れる隣国の公爵令嬢レティシアを、危険に晒すとなると長年の友好関係が、壊れる可能性がある。
もしもの恐ろしい未来を想像してしまい、シルヴィアの胸に不安の影が差す。

取り敢えず三人は、絵を保管してある部屋まで部屋まで足を運ぶことにした。

レオネルを先頭に、その後ろからシルヴィアとテオドールが付いていく。三人で絵を保管している場所へと向かう道中、テオドールがとある疑問を口にした。

「そういえば、ルクセイア公爵閣下との結婚生活は順調なのか?」
「え?旦那様ですか?全然家に帰って来ないですけど、仕事が忙しいとかで」
「え」

これにはテオドールと、前を歩いているレオネル二人同時に表情が固まった。

「まぁ私は快適に過ごしてるから、特に気になりませんが」
「それで良いのか……」

戸惑う男二人を気に留めず、シルヴィアは平然と歩みを進めた。そして部屋の前まで辿り着くと、まずレオネルが扉をノックする。

絵の調査に来た事を告げると、中から「どうぞ」と涼しげな声が聞こえた。

「失礼致します……!」

驚いた様子のレオネルを訝しみつつ、シルヴィアは長身の彼の背後からぴょこりと顔を出す。
部屋の中を確認すると、シルヴィアの青の瞳が驚きで見開かれた。
中に居たのは紺色の制服に身を包んだ、美しきワインレッドの髪の騎士。

「旦那様……?」
「シルヴィア、どうしてこちらに?」
「えっと……調査に……」

現在シルヴィアは、結婚後の休暇に入っている。
当然夫アレクセルはそのことを知っており、予定も把握されている筈である。何故シルヴィアが宮廷魔術師として出仕しているのかと、さぞかし驚いているに違いない。

(然程わたしの予定に興味がない可能性もあるけど……)


前日の夜にきちんとトレースから、出仕について了承を得ているし、問題はない筈だ。
ただ今まで王宮で、ばったりアレクセルに出くわした経験があまりなく、完全に油断していた。お陰でかなり動揺している。

「そうですか、私は殿下から魔術師方の護衛をと頼まれております。どうぞ」


部屋へと通してくれたアレクセルに対しシルヴィアは「旦那様って、本当にお仕事していたのですね!?」と言う言葉を必死に飲み込んだ。
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