青空@Archive
「天瑠璃 源次郎ともあろう人が入院だ? おいおい、ちょっと――いや、あんたにとっては暫くか――見ないうちに随分と鈍ったんんじゃないか?」
 二階の205号室。引き戸。南側に引き違いの窓。薄緑のリノリウムの床。
 そこは晴れの日には日差し良好の一等部屋だ。そう、晴れの日なら……。
 開口一番、勢い良く扉を開けると同時に、藍と名乗った男は辛口に言い放った。
 目立ちすぎだ。一人部屋だからいいものの、複数人部屋だったらどうするつもりだったのだろうか。
 我が祖父ながら、タフメンを嘯いていた源次郎おじいちゃんが、風邪から肺炎をこじらせて入院したのは、つい三日前のこと。
 幸い命に別状は無かったものの、歳でもあるので、大事をとって暫くの間病院療養することになった……のだが。
「まあ、そう言ってくれるな。わしとて人間、ただのちっぽけな老いぼれだよ」
 天井を見ながら、おじいちゃんは笑って答えた。……右手に五キロのダンベルを持ち上げて見せながら。
「どこがちっぽけだ! 寝てろよ病人!」
 思わず叫んだが、この辺がおじいちゃんのタフメンたる由縁なのだ。
 まあでも、二人がどうやら知り合いって話は嘘じゃなさそうだ。
「なんと、紫苑もおったのか。こら! 病院では静かにせい」
 自分を棚に上げて、理不尽に怒られた。
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