青空@Archive

晴ノ七@世界を壊さない?

「ティンク!」
「おっそーい! このバカピーター!」
 ピーターが船倉の天井から吊り下がった金色の鳥籠の鍵を壊すと、緑のノースリーブタイプのワンピース服に身を包んだ少女が矢のように飛び出して来る。
 ブロンドの長い髪を頭の後ろで一つに結い上げ、背中には背景が透けて見える薄い四枚の羽。
 上下左右、四方八方。自由自在に宙を飛び回る度に、金色に輝く妖精の粉がキラキラ舞い踊る。
 しかし、いかんせんそのスケールがめちゃめちゃ小さい。
 まさに手のひらサイズのミニマムサイズのいかにもな妖精、ティンカーベル――。
 しかしこの妖精が、ピーターにとってどれだけ大切なパートナーなのかは火を見るより明らかだった。
(互いに互いを必要としているのが、嫌みかって位露骨にありありと伝わってくるもんな)
 アリスの一撃によって穿たれた船の前部の穴から船内に侵入してみると、海賊船の物置らしい船室の中は、以外にも広々としていた。
 ……いや、逆に閑散とし過ぎて妙だった。
 物語の大道具とはいえ、ここは曲がりなりにも海賊船なのだから。
「伽藍堂ね」
 アリスが空っぽになった樽を爪先で蹴飛ばすと、樽は船の傾いた傾斜そのままに口を空けた隣の船室へゴロゴロ転がり、奥の壁にぶつかって止まる。
 元は宝でも積んであったのかもしれないし、保存用の木の実や香辛料、ラムなんかが幅を占めていたのかもしれない。
 ただ、それは徹頭徹尾過去の話であり、文字通り今は何も(塵一つすら!)置いてはいない。
 ボクは妖精と戯れて喜ぶピーターと、棚や奥の部屋を調べるアリスを見比べてみる。
 この土地自体は不思議の国なのだが、船も樽も、紛れもなくピーターの世界の一部だ。
 アリスの世界に無理やりピーターの世界がねじ込まれた形なのだろう。
 一つの器に二つの世界。
「まるでボクみたい――うっ!」
 吐き気が込み上げ、ボクに考えを止めろと訴える。
「……」
 喉までせり上がった苦い味を飲み込み、ブンブンと首を振って思考を振り払う。――とりあえず今は、この課題は保留だ保留!
 けど、もし、と一つの予感が胸をよぎる。

 ――世界がボクと同じなら、いつか自分に拒絶されるんじゃ……?
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