真実の愛は嘘で守って・・・。
この月夜野家の末娘として生を受けた優李は、欲しいものは何でも与えられ、大抵の我が儘は聞き入れられた。

だけどそれは愛されているからではなく、優李の力の暴走を恐れたからだ。

ヴァンパイアは普通、赤い瞳を持って生まれ、その赤が濃く鮮やかな程、保有する能力値も高いとされている。

しかし、どれ程濃く、鮮やかな赤い瞳を持つ者も到底及ばない圧倒的な力を有する者。

それが、1億人に1人の確立でしか生まれない碧色の瞳の持ち主だ。

碧色の瞳を持って生まれた優李の誕生を家族は初め心から喜んだが、まだ感情のコントロールもできない幼い優李にその力を制御することは難しく、負の感情が高まると暴走した力が物を破壊し、家族に傷を負わせた。

そのせいで家族は優李を遠ざけるようになり、今では同じ家に住んでいても会話どころかほとんど顔を合わせることもない。

とは言え、碧色の瞳の娘がいるということで、月夜野家は一目置かれる存在となっただけに、愛されていなくても優李がこの家の宝であることには違いない。

一方の俺は下等種族とされるただの人間。

いや、元々は献上品で血を吸いつくされて死ぬはずだったのだから、ただの人間よりもっと下だ。

そんな俺を、優李は自分の従者に指名。

さすがに家族も反対したが、それでも優李は我が儘を押し通し、苗字のなかった俺は急遽、月夜野家使用人頭の松島家の養子に入り、松島 楓《まつしま かえで》として従者を教育するナイトレイ校に通うこととなった。

そんな底辺中の底辺の俺が、優李に主人への敬愛以上の感情を持っているなんて周りに知れたら、さすがの優李でも俺を庇いきれないだろう。

だから、この想いは絶対にバレてはいけない。

気を引き締めて、優李の部屋のドアをノックする。
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