真実の愛は嘘で守って・・・。

【覚悟】:Side楓

学校に向かう車の中、いつもなら優李が一生懸命に話す姿を可愛いなと思いながら、はいはいと聞いてやるのだが、今の俺にそんな余裕はない。

「婚約者選びか~。まぁ、私も17だしそろそろだとは思ってたけど、明後日って急過ぎない?」

「そうですね」

「私、あんまり夜会とか得意じゃないんだけどな」

「そうですね」

ダメだ。「そうですね」と返すのがやっとで、優李の話が全く頭に入ってこない。

貴族令嬢であれば、高校卒業と同時に結婚することも珍しくなく、今年18になる優李にそういった話がくるのはごくごく当たり前のことだ。

実際、これまでにも縁談の話は来ていたのだが、優李が何かと理由をつけて断っていた。

だから、今回も奥様からその話が出た時、いつもみたいに我が儘を言って断るものだと思っていたのに、今回優李は二つ返事で了承した。

「優李様。今回はどうして断られなかったのですか?」

一介の従者が主にぞんざいな口を利いていることがバレるとまずいので、外での口調は気を遣う。

「ん?まぁ、私もなんだかんだ月夜野家の一員だしね。覚悟はしてたから」

“覚悟”

優李からそんな言葉が出てくると思わなかった。

いつも我が儘ばかりで、リボンもろくに結べなくて、無邪気に笑う彼女のことを、同い年だけどどこか子どもみたいに思っていた。

だけど実際、子どもだったのは俺の方で、どんな形でも側にいたいと思いながら覚悟が足りていなかった。

「楓?大丈夫?」

「大丈夫です。俺も覚悟決めます」

「楓が覚悟決める必要ないでしょ」

俺の気持ちを知らない優李はくすくす笑っているけれど、俺の方が覚悟がいるに決まっている。

好きな人が他の男と幸せになっていくのを、ずっと側で見ていかないといけないのだから。

とは言え、夜会まであと2日しかなく、できることもそうない訳で、とりあえず瞑想をしてみたり、「イケメンが多いといいな」なんて思ってもないことを言って自分の心を抉ってみたり、意味があるのか分からないことをしているうちに、その日がやって来た。
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