真実の愛は嘘で守って・・・。
会場に着くと、すでに名だたる貴族の子息・息女が親と共に未来の妻・夫を探して、顔合わせや歓談を行っていたが、優李が現れた瞬間、皆の視線が優李に集まり一瞬しんと静まり返る。
月夜野家の碧色の瞳を持つ令嬢を知らない人は、この場にはいないだろう。

視線を一身に受けた優李が、両手で軽く裾を持って「ごきげんよう」と挨拶をすれば、それだけで会場中の人々の心は奪われた。

案の定、名門貴族の子息がこぞって優李に挨拶をし、歓談をしたり、ダンスに誘っていた。

優李も名家の令嬢らしい振る舞いを見せ、楽しそうに笑っている。

そんな姿を見ながら、醜い嫉妬がふつふつと沸きあがる。
どうやら、とりあえずやってみた瞑想やらは、意味がなかったらしい。

優李は他の人たちより早めに退出したが、
手応えがあったのか旦那様も奥様も満足げに帰路についた。

「疲れた~」

先程までの上品さはどこに行ったのやら、ドレスのままベッドにダイブする。

「優李、早くドレス脱いでシャワー浴びてきて」

今日は早く休みたい。

イライラしているのが伝わったのか「楓、なんかずっと不機嫌」と言われ、「別に」と言葉としては否定しつつも肯定しているような口調になってしてしまう。

「不機嫌じゃん。あ~あ、夜会の時もすごいつまんなそうにしてたから、早く帰れるよう私頑張ったのに。ご褒美もなし?」

なんで俺がご褒美あげないとなんだよと思いながら、優李のベッドに座る。

「はい、どこからでも好きなだけ血飲めば」

いつもは特別なその時間も、今日は投げやりになってしまう。

優李がベッドから起き上がり、俺の前に来たのでいつも通り手を差し出したが、その手は取られず、抱きつかれてそのまま押し倒された。

「えっ、優李?」

「ぎゅー」

「は?」

「ご褒美にぎゅーして」

突然のおねだりに驚きながらも、言われたとおり優李の背中に腕を回し抱きしめる。

優李のというより、俺のご褒美になっている気がするけど、わざわざ口にする必要はないので黙っておく。

「やっぱ落ち着く。もういっそ楓が旦那さんになってくれればいいのに」

優李の何気ない一言に期待と絶望が同時に訪れて「何言ってんの」と返すのが精一杯だ。

人の心を抉っているとも知らずふふっと笑うその声が、本音でないことを伝えてきて、さらに傷を深くする。

俺だってできるならそうしたいけど、そんなことは願うことすら許されない。

いつか必ず手の届かないところに行ってしまう愛しい人を、少しでも自分の元に引き止めておきたくて、俺は抱きしめる力を強めた。
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