リナリアの花が散る頃に。


今日は蒸し暑かったせいか、少し早くに目が覚めてしまった。


時刻は午前七時。
"普通の家庭"なら義務教育を受けに子供は、学校に行っているのだろうか。
青春を楽しむ人もいれば、地獄のような環境の人もいるのだろう。


そんな世界の中で私は今、部屋に一人こもっている。
この状況が良いのか悪いのかは、難しい判断だ。


ガチャ。


反射的に私の体が跳ねる。
扉の前に立っていたのは、もちろんお母さんだった。


「"さやか"に大事な相談があるんだけど、いい?」


「、え?」


お母さんが、初めて私の名前を呼んでくれた。


「お母さん、私の名前覚えて、くれてたんだ」


「もちろんでしょ、何言ってるのよ」


今日は物凄くお母さんの機嫌がいいのだろうか。にしても、お母さんに名前を初めて呼んでもらえたことが嬉しかった。


「さやか、学校に行ってみない?」


「‥‥。え?行っても、いいの、?」


お母さんは、「いままで行かせられなくてごめんね」と私に言って、手続きをするためリビングに降りて行った。


私は、嬉しさのあまり叫びそうになったが、もし今お母さんの機嫌を損ねてしまったら。
そう考えて、叫びそうな感情を押さえつけた。


「やった、やっと私も自由だ」


小説を書き続けて何ヶ月がたったのだろうか。
努力は無駄じゃない。それを証明することがやっと出来た。


そして机の方を見ると、そこにはまっさらな机一つ。昨日書き終えた小説が消えていた。


「え、なんでっ」


もしかしたら、お母さんが私の小説を見たのかもしれない。
だから私のして欲しいことをしてくれているのかもしれない。


だったら。


私に、もうあの小説なんて要らない。


これからは自分で幸せになるんだ。


私はそう強く決心し、朝ごはんを食べる為にリビングに向かった。

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