ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~
「元々ね、歌うのは大好きだったんだ。でもね、誰かのために歌おうって思ったことはなかったんだよね。ただ歌うのが好きなだけで」


 そこまで話すとジャンは頬に手を当てたまま、親指だけをチャコの下唇へと移動させてきた。そして、そのままそこを撫ではじめる。その行動にチャコは思わず話すのを止めてしまったが、ジャンが続きを促すように見つめてきたから、少しだけ口を開いて続きを話してみた。


「でも、今は自分の声で届けたいって思ってる。それに歌いたいって気持ちも前よりもっと大きくなった。こんなに何かをやりたいって思ったの初めて」


 ジャンはとても優しい表情で見つめてくれる。頬にあった手はいつの間にやら首の後ろへと移動しており、ゆっくりとジャンのほうへ引き寄せられた。そして、二人の額がそっと触れあった。至近距離で見つめあえば、相手の心がダイレクトに伝わってくるような気がする。だから、チャコはジャンに伝えるように最後の言葉を口にした。


「私、頑張る。皆にこの歌素敵だなって思ってもらえるように」


 宣言をするように伝えれば、ジャンがチャコの額に軽く口づけを施した。チャコは頑張れと言われたような気がしたから、ありがとうの意味を込めて、にこっと微笑んでみせた。
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