ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~

4. 夢への第一歩

 チャコは恵と由香と一緒に昼食を食べると一足先に一人でサブステージの会場へと向かった。

 会場はさほど大きくはないのだが、行ってみれば中は多くの観客で満たされており、それなりの人数が集まっていた。皆、ステージにいる生徒の歌に耳を傾けている。自分もこの観客たちを喜ばせることができるだろうかと少し不安に思ったが、ジャンとの練習の日々を思い起こせば、不思議と大丈夫だと思えた。



 待機スペースで自分の番を待つ中、チャコはジャンがくれた楽譜を眺めていた。ジャンの文字がたくさん書き込まれている。ジャンと過ごした時間がそこに詰まっている。それを見ていれば、とてもとても温かい気持ちになった。ジャンの優しさに包み込まれているような気がした。

 そうやって楽譜を眺めていれば、あっという間に時間は過ぎていき、自分の番は目前というところまできた。そっと観客のほうを見てみるとそこには恵と由香、そして航平の姿があった。ジャンの姿は見当たらない。

 ジャンがいないことに少なからずショックを受けたが、今日までのことを思えば、十分に歩み寄ってくれていたと思う。今ここにはいないけれど、ジャンにも届くようにあの歌を歌おうとチャコは心の中で誓った。

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