ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~
「安達さん、お願いします」


 実行委員に促され、チャコはついにステージへと上がった。ジャンが用意してくれたあの音源が流れてくる。その音がチャコを強く勇気づけてくれる。すぐそばにジャンがいてくれているような気がした。


 いつものようにジャンのギターに自分の声を合わせたい。

 そう思ったまさにそのとき、目の端に見覚えのある人物が入り込んできた。キャップを目深にかぶった姿を見るのはこれで三度目だ。間違いない。あれはジャンだ。

 チャコはその姿に背を押されるようにして歌いはじめた。ジャンに、大切な友人に、そして今聴いてくれている人たちへ届けるように。


 ステージで歌えば、またあのときの、音楽祭のときと同じような感覚がやってくる。音が身体に響いて心地いい。でも、あのときとは違って、この音楽はもっと身近でチャコに寄り添ったものだったから、想いが溢れて止まらなかった。

 ジャンとの楽しい日々、そして音楽が好きだという気持ちを込めて綴った歌詞だから、チャコは気づけばその顔に大きな笑みを浮かべて歌っていた。はっきりと見えなかったはずなのに、ジャンも笑みを浮かべてくれているような気がして、チャコは二人で音楽を届けているような気分になった。
< 111 / 185 >

この作品をシェア

pagetop