ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~
 その日のレッスンを終えた帰り、チャコはこっちに越してから見つけた河川敷にやってきた。ここで練習するのがチャコのお決まりになっている。



「チャコ、お前上手くなったな」


 チャコの演奏に随分と上から目線で物を言うこの人物は、その物言いとは反対にとてもかわいらしい背格好の少年だった。少年は家がこの近所らしく、チャコの姿を見つけるといつも遊びに来る。小学二年生というから走り回って遊びたい盛りのはずだが、なぜかチャコに懐いていて、すぐにチャコのそばにやってくるのだ。


「ははっ。ありがとう、たけるくん。でもねー、私の大好きな人はもっと上手なんだよねー」
「そいつ天使なんだろ? 人間が天使に勝てるわけねーだろ」


 チャコはジャンとのことをこの少年によく話して聞かせていた。何でもストレートに受け取るから、とても話しやすかったのだ。変に勘繰ったりしないで、聞いたものを聞いたままに理解し、言いたいことをそのまま言うから、少年との会話はとても気が楽だった。


「あはは。そうだね。しかも、その人本当はギターの神様だからなー」
「え、神様なのか? すげーな。神様なら上手にしてくださいって、お願いすればいいんじゃね?」
「たけるくん、天才! お願いします! どうかもっと上達させてください! ははっ。これで上手くなるかな?」
「それは日ごろの行い次第だぞ」


 時々こういう小学二年生とは思えないワードを言ってくるからびっくりする。


「たけるくん……ませてるね」


 少年はその言葉の意味がわからなかったのか首を傾げていた。

< 124 / 185 >

この作品をシェア

pagetop