ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~
「何でもないよ。その天使どんな人かなって言っただけ」
「どんな人……天使で……神?」
「全然わからん……」


 恵は呆れたという顔をしている。


「チャコはまた天使さんに会いに行くんでしょ?」
「うん。でもいついるかわからないから、しばらくは毎日行ってみようと思って。だからね、来週は先に帰るね。ごめん」
「ま、理由はわかったしいいよ」


 恵はやれやれという表情をしていたが、それでも納得してくれたようだ。


「ありがとう、恵!」
「その天使に会えたらいいね」
「うん!」
「でも、嫌がられたら諦めなよ?」
「わかってるよ……ただ演奏聴きたいだけだもん……」


 チャコだってジャンを困らせたくはない。拒絶されたならば大人しく撤退する気だ。


「まあ、ほどほどにね。あれ、もしかして今日も行くつもり?」
「ううん。たぶん、土日はいないと思う」
「そうなの?」
「うん。昨日いなかったし、それに土日にいるか聞いたら微妙な顔してたから」


 ジャンは少し困った顔をしていたから、そうなのではないかとチャコは思っていた。


「野生の感か。てか、昨日ってまさか一日ずっと探してたの?」
「さすがにそんなことしてないよ……いつもいる時間に行っただけだよ」
「そう。なら、まあいいか。で、その天使はどこにいるの?」
「か……秘密!」


 危うく正直に答えてしまうところだった。チャコはキッと恵を睨んでみせた。


「ちっ!」


 恵はわざとらしく舌打ちをしている。


「今、絶対わざと言わせようとしたー!」
「もうちょっとだったのに。よし、由香も協力して。一緒に口を割らせよう!」
「え、だめ! だめだめ!」
「あはは。どうしようかなー」


 二人は本気で口を割らせるつもりなどなかったが、わざとからかうようにして楽しんでいた。チャコもそれはわかっている。三人はよくわからない寸劇を繰り広げ、楽しく笑いあってそのあとの時間を過ごした。
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