ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~
 しばらくすればその音は止み、静けさが訪れる。そっと目を開けてジャンのほうを見てみれば、ジャンも黙ってチャコを見ていた。


「うん?」


 ジャンは何も言わずにただ微笑んでいる。何も言う気はないらしい。


「ジャン、質問してもいい?」


 代わりにチャコが問いかけた。ジャンは軽く首を傾げるようにしている。それに促されてチャコは気になっていたことを尋ねてみた。


「ジャンっていくつなの? 中学生?」


 ジャンの表情が渋くなる。初めて見る表情だ。随分と不快感をあらわにしている。中学生ではないのだろう。


「高校生?」


 その問いにジャンは今度は困った顔で微笑んだ。どうやら聞かれたくないことだったらしい。その顔をされるとなんだか自分がいじめてしまっているような気がして、申し訳ない気持ちになる。ジャンのその表情を消したくて、チャコは自分のことを語りだした。


「私はね、高校二年生だよ。って、制服着てるし、高校生なのはわかるか」


 セーラーの裾部分を持って見せれば、ジャンは驚いた顔をしている。


「え、なんで驚いてるの?」


 ジャンはチャコを指さしたあと、手の平を下に向けた状態で、それをゆっくり上から下に下げていった。まさかジャンがそうやって何かを伝えようとしてくれるとは思わなくてチャコは驚いた。ジャンの言いたいことを理解したいと思った。だから、ジャンの言わんとするところを必死に読み取ろうとした。


「私が小さい? いやそんなに小さくなくない? 普通の身長だと思うけど」


 するとジャンはチャコを指さしたあとに、少し離れたところで遊んでいる小学生くらいの子供たちを指さした。

「あの男の子たち?」

 次に親指と人差し指で少しだけ間を空けた仕草をする。

「ちょっと?」

 次は人差し指を上に向けた。

「上?」

 ジャンは同じ仕草を繰り返した。

「えー、どういう意味? 私、男の子、ちょっと上?」


 ジャンは満足そうに微笑んでいる。チャコが口にした言葉で合っているらしい。ジャンは今度はチャコを指さしたあとに自分を指さし、ちょっとの動作をしたあと、指を下に向けた。


「私、ジャン、ちょっと下」


 チャコは自分でも同じ動作を繰り返してどうにか理解しようと頑張って考えた。声にも出しながら、何度も繰り返していれば、急にピーンときた。


「あ! わかった! 私が男の子よりちょっと上で、ジャンよりちょっと下?」


 ジャンは満足そうに微笑んだ。解釈は合っているらしい。でも、それが何を指すのかはチャコにはわからなかった。


「え、何が? やっぱり身長のこと?」


 ジャンは苦笑いしている。結局それ以上は教えてくれず、ジャンはまた演奏を再開してしまった。演奏が始まれば、チャコはそれを聴く以外ない。その日、ジャンが言いたいことはわからずじまいだった。
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