ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~
 明くる日、チャコはジャンのジェスチャーを解読するべく、由香の知恵を拝借しようとしていた。


「ちょっと由香の頭貸して」


 頭のいい彼女なら答えを導きだしてくれるはずだ。チャコは昨日のあらましを由香に、そして一緒にいた恵にも話して聞かせた。


「それはチャコが中学生に見えるって言いたかったんじゃない? 男の子よりも年上で天使さんよりも年下に見えたってことだと思う。驚いてたのはチャコが高校生に見えなかったからじゃない?」


 由香はあっさり謎を解いてくれた。


「なるほど! そっか、私が中学生だと思ったのかー。って、ええ!? 私はジャンに下に見られてたってこと?」


 中学生に間違われてただなんてショックだ。そういえばジャンも中学生かと聞いたら嫌な顔をしていたから、同じ気持ちだったのかもしれない。チャコはなんだか悪いことを聞いてしまったなと今になって反省した。


「チャコ、言い方……普通に年下だと思われてただけでしょ。あんたの落ち着きのなさ見れば、中学生に思われても不思議じゃないよ。そして、急に出てきたジャンってなんなの……話の流れ的に天使のことなんだろうけど」


 当たり前のようにジャンと言ったが、二人の前では初出だったらしい。


「あ、ジャンは私がつけた名前! 教えてくれないからつけた」
「いかにもチャコがしそうなことだね。その積極性は尊敬するわ、マジで」


 恵は尊敬するなどと言いつつ、その表情にそんな色は含まれていなかった。


「それにしても、わざわざジェスチャーで伝えるって、その天使はしゃべらんないんかな。チャコの言ってることわかるんなら耳は聞こえてるんだろうけど」
「うーん、どうだろうね」


 チャコも同じことは思っていた。何か声に出して話せない事情があるのだろうと。


「それは聞いてないの?」
「うん。そんなこと聞かれたくないと思うから」
「それもそっか。あんたのその感は正しいと思うよ」


 チャコも気にはなっているのだが、そこは踏み込んではいけない領域な気がして、とてもじゃないが聞く気にはなれない。それにジャンのジェスチャーを解読するのもそれはそれで悪くないと思っていた。
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