ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~
 あまりにも近い距離にチャコはどきまぎするが、それよりもジャンの表情のほうが気になった。


「あの、もしかして先週来なかったの怒ってる?」


 ジャンはチャコの手首をつかんだまま、ずっと眉をひそめている。やはり怒っているようだ。


「ごめんなさい!」


 チャコは思いきり頭を下げて謝った。


「先週、修学旅行に行ってて来れなかったの。ジャンに言うの忘れてた……ごめんなさい」


 もう一度頭を下げたあとに恐る恐るジャンを見てみれば、少し驚いたような表情をしていた。先ほどの不快感をあらわにしたような表情は消えている。チャコは謝罪の勢いに乗せて、持ってきた長崎土産をジャンにずいっと差し出した。


「これお土産! 長崎だったから、長崎ちゃんぽん!」


 ジャンはそれを素直に受け取ると目をパチパチとさせた。そして、チャコと手元のちゃんぽんを見比べると、なぜかおかしそうに微笑んだ。


「本当にごめんね」


 もう一度謝れば、ジャンは優しい微笑みを浮かべて、チャコの頭をポンポンっと軽く叩いた。


(っ! そんなんされたらキュンてなる……)


 チャコが恥ずかしそうにしていれば、ジャンはもう一度チャコの頭にポンポンっと軽く触れた。ジャンはずっとにこにことしている。もう怒ってはないようだ。許してくれたらしい。


「ジャン……今度からはちゃんと言うね?」


 ジャンは嬉しそうに笑っている。いつもの空気が流れてチャコはようやく肩の力を抜いた。
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