ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~
「ねぇ、今日は歌うんじゃなくて、ジャンのギターいっぱい聴きたいな」


 チャコがそう言えば、ジャンはそれに応えていろいろな曲を弾いてくれる。いつもよりも近い距離で聴いているからか、なんだか少しくすぐったい気持ちだ。



 ジャンはしばらくしてから演奏の手を止めるとチャコを見つめてにこにこと微笑む。至近距離で浴びる天使の微笑みにチャコは今にも昇天しそうだ。そのままジャンと目を合わせていられなくて、咄嗟に顔を下に向ければ視界に自分の鞄が入ってきた。それを見てふと思いだした。ジャンに見せたいものがあったのだと。


「そうだ! あのね、面白いのがあるの。じゃーん!」


 チャコは鞄からきれいに装飾が施されたガラスを取りだした。風鈴みたいな形の頭には細長い棒がついている。


「知ってる? ビードロっていうんだよ。これも長崎で買ってきたんだ。きれいでしょ? これを吹くとねポコって音が鳴るんだよ」


 チャコがビードロを吹いてみれば、ポコっとかわいらしい音が鳴る。それを何度か繰り返せば、隣からまたギターの音が聞こえはじめた。『幸せなら手をたたこう』だ。ジャンの言わんとすることがわかって、チャコはジャンの演奏に合わせてポコポコとビードロを鳴らす。なんともかわいい音楽が生まれて、チャコは楽しくて楽しくてたまらなかった。


「あはは! 楽しいね! 私、ジャンと一緒に音楽するの大好き!」


 ジャンは何も言わないけれど、それでもその表情からは楽しいという感情が窺える。チャコはそれがとても嬉しかった。


 その日、ジャンはチャコの要望通りたくさんの演奏を聴かせてくれて、チャコはジャンとの時間がもっともっと好きになった。
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