ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~
 チャコはそのままずっとそれに浸っていたかったが、時間が経つにつれ寒さが堪える。さすがにもう帰ろうかとジャンに告げようとしたら、ふわりと温かなものがチャコの首に巻かれていった。ジャンが自分のマフラーを巻いてくれたのだ。


「え? ジャン?」


 ジャンを見ればまた天使の微笑みを浮かべていた。


「ありがとう。へへっ、あったかい」


 素直に礼を言えばジャンも嬉しそうにしている。それが嬉しくてにこにこと微笑んでいれば、なぜか両手首を正面からつかまれ、そのままジャンのコートの前ポケットに突っ込まれた。


「へ? いや、え、ちょっと……はずかしい……」


 ジャンはずっとにこにことしている。その距離の近さに恥ずかしくて俯いていれば、ジャンに唇をトントンと叩かれた。歌っての合図だ。それをされるのは久しぶりだった。『Joy』にいる間は一度も歌ってないのだ。久しぶりの唇への接触と至近距離から浴びる微笑みにチャコはオーバーヒート寸前だ。


「……もう、ジャンはどうしてドキドキすることばっかりするの……」


 ジャンは微笑むばかりだ。


「はあー……何歌えばいいの?」


 ジャンは何も言わず、もう一度唇を叩いてくる。


「それじゃあ、わかんないよ……何でもいいの?」


 ジャンは嬉しそうに微笑んでいる。何でもいいらしい。


「じゃあ、クリスマスっぽいやつにする? 何だろう、クリスマスの曲って」


 いくつか洋楽が浮かんだが、英語の歌詞を何も見ずに歌える自信はない。他に歌える曲はないだろうかと考えて最初に思いついた曲をチャコは口にしてみた。『きよしこの夜』だ。

 チャコが歌いだすとジャンは足踏みと指鳴らしでリズムを刻みはじめた。チャコの歌に合わせて『ドンカッカッ』と鳴らす。ジャンにかかれば何でも音楽にできるようだ。チャコも楽しくて一緒に足を踏み鳴らした。


「あはは! ジャンと音楽するのやっぱり楽しい! 大好き!」


 チャコが思ったままを口にすれば、ジャンは優しい笑みを浮かべたまま、チャコの頭をそっと撫でてくれた。すごくドキドキして今にも叫びだしたくなったけれど、ジャンの気持ちが伝わってくるそれが嬉しくて嬉しくて、その日は何も言わずにされるがままになっていた。

 なんだか二人の距離がグッと縮まったような気がした。


 確実にチャコの中でジャンの存在が大きくなりはじめていた。
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