ギター弾きの天使とデュエットを ~言葉を話さぬ彼に惹かれて、二人は同じ夢を見る~
 そうして迎えた初めて全員で合わせる練習の日。野中清(のなかきよし)が笑顔で話しかけてくれた。


「チャコちゃん、よろしくね。チャコちゃんの歌聴けるのずっと楽しみにしてたんだよ」
「ありがとうございます。緊張するけど、頑張ります!」
「うん。僕も演奏頑張るから、よろしくね」


 野中はリコーダーよりももっと細長い形状の縦笛、そしてときにアコーディオンを弾いている。チャコは彼の演奏を何度か聴いているが、彼がチャコの歌を聴くのは今日が初めてだ。そのことに少し緊張してしまうが、野中の優しい表情と言葉に少しだけ勇気が湧いた。


 まずは最後まで通してみようという話になり、曲の頭から終わりまで一度も止めずに合わせてみた。演奏が終われば、皆チャコによかったよと優しい声をかけてくれる。ジャンもチャコと目を合わせて微笑んでくれた。

 そんな中、野中だけ何も言葉を発さずぼーっとしていたから、しげさんが心配して声をかけた。


「おい、野中、大丈夫か?」
「あ、いや、すみません。驚いてしまって……チャコちゃん、本当に上手なんだね。思わず聴き惚れちゃったよ」


 野中が褒めてくれた。チャコはようやく最初に感じた緊張が解けたような気がした。しげさんは大丈夫だと言ってくれていたが、本人から言われればとても安心できた。


「よかったー。緊張した―。ありがとうございます!」
「だから言っただろ? 絶対気に入るって」


 優しい空気が流れて皆微笑んでいた。


 そのあとは細かいところを詰めつつ、最後にもう一度通しで合わせた。


「今日はこの辺にしておくか」


 しげさんの合図でその日は解散となった。皆と音を合わせたことでチャコが抱いていた不安も随分と薄れた。温かく迎えてくれる彼らにチャコは感謝の気持ちでいっぱいだ。


 チャコたちは本番まで毎週音を合わせて、演奏を仕上げていった。ジャンと二人で作り出す音楽も好きだが、しげさんたちと合わせるともっともっと音が立体的になって、まるで音の海をたゆたっているような心地になる。そこに自分の声を重ねれば、自分もそこに融合していくような感覚にとらわれて、とても満ち足りた気持ちになった。



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